2014年10月29日水曜日


十二三より  

この年のころよりは、はや漸々声も調子にかかり、能も心づくころなれば、次第次第に物数も教ふべし。まづ童 形なれば、なにをしたるも幽玄なり。声も立つころなり。二つの便りあれば、悪きことは隠れ、よきことはいよい よ花めけり。おほかた、児の申楽に、さのみにこまかなるまねなどは、せさすべからず。当座も似あはず、能もあ がらぬ相なり。ただし、堪能になりぬれば、なにとしたるもよかるべし。児といひ、声といひ、しかも上手ならば、 なにかは悪かるべき。さりながら、この花は真の花にはあらず。ただ時分の花なり。去れば、この時分の稽古、す べてすべちやすきなり。さるほどに、一期の能のさだめにはなるまじきなり。このころの稽古、やすきところを花 にあてて、わざをば大事にすべし。はたらきをも確やかに、音曲をも、文字にさわさわとあたり、舞をも、手をさ だめて、大事にして稽古すべし。

0 件のコメント:

コメントを投稿