十二三より
この年のころよりは、はや漸々声も調子にかかり、能も心づくころなれば、次第次第に物数も教ふべし。まづ童
形なれば、なにをしたるも幽玄なり。声も立つころなり。二つの便りあれば、悪きことは隠れ、よきことはいよい
よ花めけり。おほかた、児の申楽に、さのみにこまかなるまねなどは、せさすべからず。当座も似あはず、能もあ
がらぬ相なり。ただし、堪能になりぬれば、なにとしたるもよかるべし。児といひ、声といひ、しかも上手ならば、
なにかは悪かるべき。さりながら、この花は真の花にはあらず。ただ時分の花なり。去れば、この時分の稽古、す
べてすべちやすきなり。さるほどに、一期の能のさだめにはなるまじきなり。このころの稽古、やすきところを花
にあてて、わざをば大事にすべし。はたらきをも確やかに、音曲をも、文字にさわさわとあたり、舞をも、手をさ
だめて、大事にして稽古すべし。
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