2014年10月19日日曜日


茶道と正座
茶道は、昔から正座で行っていたと思っていた。しかし、先の『正座と日本人』では、茶人はもともと正座をしていなかったと強調している。
茶道を大成した千利休、利休の師にあたる武野紹鷗たけのじょうおう千家三代目であり三人の息子たちがそれぞれ表千家、裏千家、武者小路千家を興した千宗旦せんそうたん江戸時代に江戸千家を創始した川上不白かわかみふはくなどの肖像画や木像は、“アグラ”や坐禅の座法である“半跏趺坐はんかふざ”である。さらに千利休のまな弟子であった細川三斎ほそかわさんさいの伝書『細川茶湯之書』には、「客が安座してくつろいでいる時は、主人は片膝を立てていた」と記している、などの例をそれぞれ詳しく説明し、次のように述べている。

<<これらを総合して考えると、寺院の儀礼的な飲茶茶礼から亭主と客が心を通わせる茶の湯、さらには精神性を高めた茶道へと発展する過程に、正座はまったく関与していなかったといえそうです。少なくとも江戸時代後期までは正座と茶道を結びつけるものはないと考えるのが妥当です。また、茶会における座り方は明治時代になるまでは自由だったと、多くの専門家が指摘しています(『文化としてのマナー』熊倉功夫、岩波書店)>>

『正座と日本人』の著者は、正座が武家を中心に広まったのは江戸時代中ごろから後半であると推測している。
江戸城内では刃傷沙汰にんじょうざたがときどき起きていた。そのため、刃傷沙汰を防止する意味を含めて、足がしびれ、刀が抜きづらく、機敏な動作に支障をきたす作法が注目された。やがて各大名が将軍に拝謁はいえつする際、動きづらい長袴ながばかまを礼装にして、正座をとらせるようになった。これが八代将軍・吉宗(16841751)の代からとしている。
この支配階級(=武士階級)の作法である正座を、明治新政府は、正座の習慣がなかった庶民にも、正式な作法として勧めた。これが、女子教育の茶道にも取り入れられた。茶道と正座の関係は、思っているほど深くはないようだ。
矢田部英正著『日本人の坐り方』ではつぎのように述べている。
<<「正坐」という坐り方についての常識も、私たち日本人の頭のなかに刷り込まれた「近代の偶像」なのではないだろうか。「これこそが正しい坐です」という基準が定まってしまうと、それ以外の坐り方は「正しくない」「不作法である」という風にイメージは連鎖して、「崩し」や「くつろ自由てい
「立て膝」が正式な作法であった江戸時代初期の茶道では、形にとらわれて窮屈な姿勢で点前てまえをするよりも、本人にとって自然であることの方をより大事にする思想を、千道安や片桐石州らがもっていたとされる。歴史に学んでいたならば、日本人にとっての美の基準は「自然であること」を指針としてきたはずで、それは茶人が追求した「崩しの美学」における人為性の排除にもあらわれているはずなのである。>>

追記1 坐と座と座法
現在、「坐」と「座」の漢字は、「座」に統一されている。本来、「坐」は「すわる」の意で動詞的に用い、「座」は「すわる場所」の意で名詞的に用いた。
 今日、“正座”と呼ばれる座法は、本来は「かしこまる」とか「つくばう」「跪坐きざ」「端坐たんざ」などと呼ばれ、主として神前、仏前での儀礼的な場面で行われ、また主君に対して家臣がかしこまる姿でった。そして庶民が日常的に正座をするようになったのは、畳の普及や座布団ざぶとんの使用が正座を広めた側面あり、それらが庶民に普及し始めた明治末ではないかという。
歴史上の女性の座り方については、源頼朝の正室・北条政子はアグラ、豊臣秀吉の妻・北政所きたのまんどころの出家姿は右立てひざ姿、上杉謙信の姉が右立て膝姿、さらに、徳川家康の長女亀姫、徳川二代将軍・秀忠夫人の小督おごうの方、五代将軍・綱吉の生母桂昌院などなどが右立て膝姿であったことを、後世に残す正式な姿として作られた肖像画や木像によって正座と日本人の著者は検証している。
明治になって正座の基準が定められたことで、日本にあった“坐の文化”がすたれてしまったと、先の『日本人の坐り方』の著者は次のように述べている
<<「正しい基準」というのは、それが定まると同時に基準と対立する「正しくないもの」を排除してしまう。近代以前は、「胡坐あぐらも「安坐あんざも「立てひざ有用り方生活位置てい、「坐」しい基準ってというの、い基準作法」レッテルったる。永い日本の伝統最近近代文化基準ない、という本当ないろうか。>>
立て膝やアグラは、行儀が悪い座り方、くつろいだ座り方とされている。しかし、これらもかっては“正座”であったのである。

追記2 喫茶法の分類
張建立著『茶道と茶の湯―日本茶文化試論―』の中で、日本における喫茶法を分類している。まず、茶葉を食する喫葉法と、湯水で茶葉より抽出した成分を飲む喫汁法に分けている。現在、広く行われている茶道は喫葉法、家庭などで急須に入れてから飲むお茶は喫汁法になる。

[出典]
http://www7a.biglobe.ne.jp/~thaishun/zaturoku27.html


0 件のコメント:

コメントを投稿