十七八より
このころはまた、あまりの大事にて、稽古多からず。まづ声変りぬれば、第一の花失せたり。体も腰高になれば、
かかり失せて、過ぎしころの、声も盛りに、花やかに、やすかりし時分の移りにて、てだてはたと変わりぬれば、
気を失ふ。結句、見物衆もをかしげなる気色みえぬれば、はづかしさと申し、かれこれ、ここにて退屈するなり。
このころの稽古には、指をさして人に笑わるるとも、それをばかへりみず、内にて、声の届かんずる調子にて、宵
暁の声を使ひ、心中には願力を起こして、一期のさかひここなりと、生涯にかけて、能を捨てぬよりほかは、稽古
あるべからず。総じて、調子は声よりといへども、黄鐘・盤渉をもて用ふべし。調子にさのみにかかれば、身形に
くせ出くるものなり。また、声も年よりて損ずる相なり。
0 件のコメント:
コメントを投稿