2014年10月29日水曜日


四十四五

   このころよりは、能のてだて、おほかた変わるべし。たとひ、天下に許され、能に徳法したりとも、それにつき ても、よきわきのしてを持つべし。能は下がらねども、力なく、やうやう年たけゆけば、身の花も、よそめの花も、 失するなり。まづ、すぐれたらん美男は知らず、よきほどの人も、直面の申楽は、年寄りてはみられぬものなり。 さるほどに、このひとむきは欠けたり。このころよりは、さのみに、こまかなるものまねをばすまじきなり。おほ かた似合たる風体を、やすやすと、骨を折らで、わきにしてに花を持たせて、あひしらひの様に、すくなすくなと すべし。たとひわきのしてなからんにしても、いよいよこまかにみをくだく能をばすまじきなり。なにとしても、 よそめ花なし。もし、このころまで失せざらん花こそ、真の花にてはあるべけれ。それは、五十近くまで失せざら む花を持ちたるしてならば、四十以前に天下の名望を得つべし。たとひ天下の許されを得たるしてなりとも、さ様 の上手は、ことにわが身を知るべければ、なほなほわきのしてを嗜み、さのみに身をくだきて、難のみゆべき能を ばすまじきなり。か様にわが身を知る心、得たる人の心なるべし。 

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